QLOOKアクセス解析 小説本文 | ナノ



私が袴に着替えたら (大久保ver)


今日は早目に仕事も片が付き、暇を持て余している小娘を
連れて出かける準備をしていた。
するとバタバタと騒がしい足音が近づいてきた。
この薩摩藩邸で、騒がしい足音をさせるのは、
小娘ぐらいのものだ。
最近、落ち着いてきたように思えたのだが・・・。
スパーンと襖が開く。

「大久保さん、準備できました!」

予想通りの人物が顔を出し・・た・・?

「・・・何だ、その姿は?」

小娘ならぬ小僧がそこには立っていた。

「どうですか?」

どうですか?と嬉しそうな表情で聞く。
なにが、どうなんだ?

「・・・ついに女子であることを捨てたか?」
「捨ててません!」
「ならば何故、そのような姿を?」

毎朝、胴衣姿で素振りをしているのを見ているから、
袴姿自体は珍しくない。

問題は着物だ。
私が送ったものの中でも、割と色合いの落ち着いた、
青色の着物に袴を合わせている。

更に普段、素振りの時は首のあたりで、まとめている髪を
高い位置でまとめ、うなじが晒されている。
まるで、中岡君のような髪型だ。

「あの、この姿だったら・・・」
「この姿だったら?」
「大久保さんと並んで歩けるかなーって」

顔を赤らめながら話す。

「並んで歩くことに何か意義があるのか?」
「意義って・・・一緒に出かけるなら、顔を見ながらお話したいです」

「小娘、そんなことの為に志士のような格好をしてるわけか」
「まあ、そうです」

小娘の世界では、男女並んで普通に歩いていたらしい。
更に手を繋いで・・・。
確かにここでは、考えられぬ行動だ。

「悪いが、そのような姿の小娘と出かける気にはなれん」

そういうと、表情が曇るのがハッキリと読み取れる。

「そう・・ですか・・」

そのまま退室しようとする小娘の腕を取り、引き止める。

「何を気落ちしている?」
「気落ち・・しますよ、私・・大久保さんと並んで歩きたかったんです!」

潤んだ瞳で、キっと睨みつけるように私を見る。
まったくその瞳が、気落ちした者のする瞳か?

「私は出掛けないとは言っていないぞ?」
「え?だって今・・・」
「その姿では出掛けない、と行っただけだが?」
「この姿じゃなかったら、横並びで歩けないじゃないですか!」

あくまでも、横並びを主張する。
何がそこまで小娘にさせるのか?

「小娘、何故それにこだわる?」
「そ、それは・・・好きな人とは並んで歩きたいんです!」
「ほお」

言ってから、「しまった!」とばかりに片手で口をふさぐ。
そして耳まで真っ赤になると、私から視線をそらす。
何とも、聞いてみれば可愛い理由だ。
ならば・・・。

「小娘、すぐに着替えろ」
「え?」
「良く考えろ、その姿で私と小娘が仲良く歩いてみろ、私が男色家と勘違いされるであろう?」
「だんしょくか?」

言葉の意味が理解できず、小首を傾げて質問する。

「男好き、ということだ」

耳元で囁く。

「?!」

小娘の顔色は赤から青に変わる。
よくまあ、色の変わる娘だ。

「理解出来たら、さっさと着替えてこい」
「は、はい!」
「そうしたら、今日は特別に横並びで歩いてやらないこともないぞ?」
「え?いいのですか?!」

心配そうに私の顔を見る。

「男色家に思われるよりはまだいい」
「ありがとうございます!すぐ着替えてきますね!」

私の言葉に一喜一憂、赤くなったり青くなったりと
忙しくコロコロと表情が良く変わる。
その姿は何とも愛おしくも思える。

小娘が出て行ったあと、文机の上を整理し出かける準備をする。

「好きな人とは並んで歩きたいんです!」

思わず顔がゆるむ。
まったく、小娘に翻弄されるとは・・・。
私もまだまだ鍛錬が足らんな。
そう思いながらも、この状況を
楽しんでいる事も、また事実。
しばらくは、小娘の余興に
付き合うこととしよう。




分岐に戻る

目次に戻る

main☆ top


☆comment?☆






「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -